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about Hedging // 01
ここではヘッジ・オペレーションについてご説明いたします。この先、便宜的なシンボルとして、現物の購入価格を+P、販売価格を-P、LMEでのヘッジ取引の買いを+L、売りを-Lと表示します。もし+Pと-Pが同時期に発生するのであればリスク回避のためのヘッジは必要がなくなります。しかし、その間に時間的なギャップが存在するのであれば、価格リスクが発生することになります。
ヘッジの基本
ヘッジ・オペレーションは次の4種類に大別されます。まずは売りヘッジです。先ほどのシンボルを使うと+Pと-Lの組み合わせです。ある人が現物取引で買いを行なったものの、この商品をまだ他に売りつなぐことができないでいるか、もしくは売る約束はされていてもその価格が未定であるような場合、この現物の買主は相場の下げに対するリスクを負担していることになります。これを避けるために売りヘッジが行なわれます。これには商社の現物買い持ち、鉱山会社のコスト・メタル、消費者の原料メタル購入などが含まれます。
売りヘッジ 買いヘッジ
現 物 LME 現 物 LME
----------- ----------- ----------- ----------
+P -L (新規) -P +L
-P +L (仕切) +P -L
次に買いヘッジです。これは-Pと+Lの組み合わせで表されます。現物取引で将来において引渡しされる商品を先売りした場合に、そのための原材料またはその商品そのものをまだ入手していないか、あるいは入手する約束はされていてもその価格が未定であることがあります。その時、この現物の売主は相場の上げに対するリスクを負担しており、これを避けるために買いヘッジが行なわれます。これには商社の現物販売の先行や消費者の原料購入価格の確保などが含まれます。
3番目にロックイン・ヘッジがあります。ロックイン・ヘッジはコンタンゴのロックインとバックワーデーションのロックインに分類されます。将来のある時期において売りヘッジを行なうことが必要な現物の取引があるとした場合に、その将来の値決めおよび売りヘッジの際にマーケットがコンタンゴであるのかバックワーデーションであるのかが予想がつきません。仮にコンタンゴであったとしても具体的に何ドルのコンタンゴであるかは予想不可能です。バックワーデーションになった場合にはむしろ売りヘッジをすることによって損失が生じてしまいます。これを避けるためのオペレーションが今のうちからこのコンタンゴを固定してしまうという方法で、コンタンゴのロックインと呼ばれます。シンボルで表示しますと、期近の+Lと期先の-Lを同時に行ないます。これは先に述べましたボローイングと同様の取引です。その後、現物の購入値決めがなされた際(+P)に+Lを売り閉じます(-L)。さらに現物の販売価格が決定した際(-P)に期先の-Lを買い閉じます(+L)。このコンタンゴのロックインは長期契約においてもっともその効果を発揮します。購入のQP(値決め期間)と販売のQPの間にずれがある場合にヘッジをすることになりますが、長い間にはコンタンゴの構成に予期せぬ変化が起こる可能性があるからです。また現物の取引において販売のQPが購入のQPに先行する場合もあります。この場合は買いヘッジから入ることになりますので、マーケットがコンタンゴになったときには必然的に損失が生じてしまいます。この場合はバックワーデーションによる利益を固定するためにバックワーデーションのロックインを行ないます。シンボルで表示しますと、期近の-Lと期先の+Lを同時に行ないます。これはレンディングと同様の取引です。その後、現物の販売値決めがなされた際(-P)に-Lを買い閉じます(+L)。さらに現物の購入価格が決定した際(+P)に期先の+Lを買い閉じます(-L)。
コンタンゴ・ロック バック・ロック
現 物 LME 現 物 LME
----------- ----------- ----------- ----------
+L (期近) -L
-L (期先) +L
現 物 LME 現 物 LME
----------- ----------- ----------- ----------
+P +L -L (期近) -P +L -L
-L (期先) +L
現 物 LME 現 物 LME
----------- ----------- ----------- ----------
+P +L -L (期近) -P +L -L
-P +L -L (期先) +P +L -L
最後に、オプションを利用する方法があります。通常のヘッジ取引により生じるロスを支払うのが嫌であれば、先にプレミアムの支払いを行なってオプションを購入するというヘッジ手段があります。
売りヘッジ
ここからは実際のヘッジ・オペレーションについてご説明します。まずは売りヘッジです。商社が4月1日に生産者から銅を4月1日のLMEのセトルメントベースのキャッシュ価格プラス50ドルのプレミアムで購入しました。4月1日のセトルメントベースのキャッシュ価格は5600ドルでした。現物の購入価格は5650ドルとなります。この段階ではまだ現物を売りつなぐことができなかったため、4月1日にLMEの3ヶ月先物で売りヘッジを行ないました。プロンプト・デートは7月1日です。その時点での3ヶ月先物には30ドルのコンタンゴがついており、キャッシュ価格の5600ドルに対し、売りヘッジの価格は5630ドルとなりました。さて、この時点では現物の購入価格(5650ドル)とLMEの売りヘッジ価格(5630ドル)が確定しています。先の方式で表示しますと下表のようになります。
現物 LME
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買 売
取引日:4月1日 取引日:4月1日
5650ドル 5630ドル
(7月1日)
補足ですが、実際の価格決定はその取引が行なわれる国や地域における需要と供給の相対的強弱関係や輸入関税の有無等の要素が加味されて行なわれます。需要の方が強ければLME価格への上乗せ(プレミアム)が行なわれ、反対に供給が過剰な地域ではLME価格より低い価格(ディスカウント)で取引されるようになります。このプレミアムとディスカウントの形成はきわめて変動的で、それ自体がひとつのマーケットです。いずれの場合においても基準となる指標価格はLMEのものが使用されており、そのLME価格の上下動に応じて現物の取引価格も上下することから、この現物の値決め方法をLMEスライドと呼んでいます。
さて、その後現物に買い手がつき、7月1日のプロンプト・デートに合わせて6月29日に値決めを行ないました。これは先に述べましたとおり、取引の清算をプロンプト・デートの2営業日前までに行なう必要があるからです。販売価格は6月29日のセトルメントベースのキャッシュ価格(キャッシュ・セトルメント価格)プラス70ドルです。同時にLMEの売りポジションをキャッシュ・セトルメント価格で買い戻しました。この6月29日時点では銅価格が下落しており、キャッシュ・セトルメント価格は5400ドルになりました。現物の販売価格は5400ドルに70ドルのプレミアムを加算して5470ドルです。さてこれで現物取引の売りとLMEの売りヘッジ・ポジションに対する買いが出揃ったことになります。
現物 LME
--------------------------------------------- -------------------------------------------
買 売 買 売
取引日:4月1日 取引日:6月29日 取引日:6月29日 取引日:4月1日
5650ドル 5470ドル 5400ドル 5630ドル
(7月1日) (7月1日)
差損:180ドル 差益:230ドル
現物取引では180ドルの損失が生じたものの、この相場差損は売りヘッジの差益により回復されています。取引全体で生じた利益50ドルは現物仕入と販売のプレミアム差20ドルとコンタンゴ益30ドルの和です。
さてここで、この例にあげた現物取引の支払条件に注目してみますと、現物購入に対する支払いを4月1日に行ない、現物販売による入金が6月29日であったため実質的に金利の損失が生じています。ドル金利が年利2%であればその3ヶ月分は約30ドルとなり、ヘッジによるコンタンゴ益30ドルはこの金利損と相殺されています。結論としては、コンタンゴによる利益は現物取引において金利損がないときに初めて余剰益となります。また、仕入先からの受渡しが完了した後に、販売の引渡しが行なわれるまでの期間、現物が営業倉庫に保管されていた場合には一定の倉庫料金の負担もしなければなりません。この費用もコンタンゴ益によってカバーすべきコストとみなされます。現物取引においては品質、受渡方法など種々の取り決め事項がありますが、ヘッジとの関連において重要なものはプレミアム、金利の得失(売買の支払条件の差異による)、倉庫保管料(受渡し期日の差異による)、値決め方法(コンタンゴのメリットがあるか否か)の4つです。これらの要素の組み合わせにより、損益は総合的に判断される必要があります。