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about Hedging // 02
買いヘッジ
続きまして、買いヘッジのメカニズムについてご説明します。現物の販売が購入に先行するケースがあります。この場合に買いヘッジが必要になります。商社が4月1日に3ヵ月後の受渡し条件でアルミを販売しました。販売価格は4月1日のLMEキャッシュ・セトルメント価格で、これは1800ドルでした。この段階ではまだ現物の手当てを行なっていなかったため、4月1日にLMEの3ヶ月先物で買いヘッジを行ないました。プロンプト・デートは7月1日です。その時点での3ヶ月先物には20ドルのコンタンゴがついており、キャッシュ価格の1800ドルに対し、買いヘッジの価格は1820ドルとなりました。この時点では現物の販売価格(1800ドル)とLMEの買いヘッジ価格(1820ドル)が確定しています。ここでも先程の方式で表示します。
現物 LME
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売 買
取引日:4月1日 取引日:4月1日
1800ドル 1820ドル
(7月1日)
その後6月29日に現物の手当てをしました。購入価格は6月29日のキャッシュ・セトルメント価格フラットです。同時にLMEの買いポジションをキャッシュ・セトルメント価格で売り閉じました。この6月29日時点ではアルミ相場が上昇しており、キャッシュ・セトルメント価格は2000ドルになっていました。これで現物取引の買いとLMEの買いヘッジ・ポジションに対する売りが出揃ったことになります。
現物 LME
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買 売 買 売
取引日:6月29日 取引日:4月1日 取引日:4月1日 取引日:6月29日
2000ドル 1800ドル 1820ドル 2000ドル
(7月1日) (7月1日)
差損:200ドル 差益:180ドル
現物取引では200ドルの損失が生じたものの、この相場差損は買いヘッジの差益により補填されています。しかしながら取引全体では20ドルの損失となっています。これはコンタンゴ分に等しく、買いヘッジにおいてはコンタンゴが損失となります。ここで重要な点はこの取引において20ドルの損失が発生することは相場の展開如何にかかわらず、4月1日に現物販売を先行させた時点で確定しているということです。この分は本来、現物側のプレミアムや支払条件により回復されなければなりません。
これまでにご説明した単純な売りヘッジと買いヘッジのメカニズムはマーケットがコンタンゴであることを想定したものです。バックワーデーションの場合は、現物の購入が先行し売りヘッジを行なうことによってバック分がコストとなります。ただし、現物価格が先物価格より高いバックワーデーション時に、商社が敢えて将来の販売に備え足元の高い現物を手当てする必要があるのかどうかという問題があります。結論的にはこのような現物取引は十分にありえます。なぜならば、バックワーデーションは足元の供給不足から発生するケースがほとんどであり、その際のマーケットは強気相場を形成していると考えられるからです。しかし現物購入と同時に期先で売りヘッジを行なう可能性は低いでしょう。このケースで商社が売りヘッジを行なうタイミングは思惑どおりに相場が上昇し、現物購入価格の絶対値を先物価格が追い越した場合か、もしくは意に反して相場が下落し、ストップ・ロスのために売りヘッジを行なう場合でしょう。いずれにせよ純粋なヘッジとはいえず投機的な色彩の強い取引となります。
逆に将来における現物の販売が先行して買いヘッジを行なう場合はバック分が収益となります。バックワーデーションのマーケットでは高い現物価格に基づいた販売を増やすことに尽力する一方で、現物購入の値決めを遅らせることが収益に直結することになります。もちろん商社の仕入先も供給不足の市場で現物を販売するわけですから、高い現物価格に基づいた値決めを行ないたいと考えるでしょう。一方、商社は供給不足の市場で販売を約束している以上、受渡し期日内の現物確保が必要となります。期日にできるだけ近いタイミングで現物購入を行なうのがベストではありますが、いずれにせよ相場以前のリスクを抱えての取引になる可能性が高いといえるでしょう。このようにバックワーデーションのマーケットでは買いが先行しても売りが先行しても商社は苦しい選択を強いられることになります。
キャリー
さて、先の売りヘッジの例ではLMEのプロンプト・デートと合致したタイミングで現物販売の値決めができたと想定しましたが、実際の取引ではプロンプト・デートが到来する前に現物を販売するケースやプロンプト・デートになっても現物の買い手がつかないケースも多々あります。前者は簡単です。例えば6月1日時点で販売先が現れ、値決めも6月1日のキャッシュ・セトルメント価格プラス70ドルのプレミアムで行なわれたとします。6月1日のキャッシュ・セトルメント価格が5500ドルであった場合、販売価格は5570ドルです。LMEの買戻しも6月1日に行ないますが、この場合はキャッシュ・セトルメント価格を買うのではなく、キャッシュ・セトルメント価格をベースに7月1日の価格を買い戻します。マーケットが依然としてコンタンゴであれば、買い戻し価格も6月1日(厳密には6月3日)から7月1日までの約1ヶ月分のコンタンゴ(仮に10ドルとします)が上乗せになります。この場合、取引全体の利益は40ドルとなり、これは現物仕入と販売のプレミアム差20ドルとコンタンゴ益20ドルの合計です。ポジションを建てた時点でのコンタンゴ益は30ドルでしたが、6月1日に前倒しでポジションを閉じたために約1ヶ月分のコンタンゴ益(10ドル)を放棄した形となります。しかし、先の例でもご説明したように、現物取引では金利負担がコストとなっていますので、そのコストも等しく縮小することになります。仮に6月1日の時点でマーケットがバックワーデーションに転じていた場合は、そのバック分をまるまる享受できることになります。
現物 LME
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買 売 買 売
取引日:4月1日 取引日:6月1日 取引日:6月1日 取引日:4月1日
5650ドル 5570ドル 5510ドル 5630ドル
(7月1日) (7月1日)
差損:80ドル 差益:120ドル
次にもしLMEで行なった売りヘッジの期日内に現物が販売できなかった場合を考えてみます。このケースは複雑で、本来売りヘッジのつもりでLMEに建てた7月1日のポジションを先延ばしにする、すなわちキャリー取引をする必要がでてきます。本来のヘッジ・ポジションのプロンプト・デートは7月1日ですので2日前の6月29日にキャッシュ価格でメタルを買うと同時に期先のメタルを売るボローイングを行ないます。下の例では2ヶ月先までボローイングを行なっています。6月29日時点での7月1日から9月1日までのコンタンゴは20ドルとしています。
現物 LME
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買 売 買 売
取引日:4月1日 取引日:8月30日 取引日:6月29日 取引日:4月1日
5650ドル 5370ドル 5400ドル 5630ドル
(7月1日) (7月1日)
差損:280ドル 差益:230ドル
LME
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買 売
取引日:8月30日 取引日:6月29日
5300ドル 5420ドル
(9月1日) (9月1日)
差益:120ドル
この後、8月30日時点で販売先が現れ、値決めも8月30日のキャッシュ・セトルメント価格プラス70ドルのプレミアムで行なわれたとします。8月30日のキャッシュ・セトルメント価格が5300ドルであった場合、販売価格は5370ドルです。LMEの買戻しも8月30日に5300ドルで行ないました。この場合、取引全体の利益は70ドルとなりますが、これは現物仕入と販売のプレミアム差20ドルとコンタンゴ益50ドルの合計です。ポジションを建てた時点でのコンタンゴ益は30ドルでしたが、7月1日から9月1日にポジションをキャリーしたために新たに2ヶ月分のコンタンゴ益20ドルが獲得できた形となります。しかし、現物取引では金利負担がコストとなっていますので、そのコストも等しく増大しているはずです。
このケースでは受渡しが前倒しになった例とは逆に、マーケットがバックワーデーションに転じた場合、そのバック分がまるまるコストになるという危険性があります。